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吸血鬼のやつ(仮)



その2


「・・・やっぱり面白かった、うん」
雪奈はクラスメートの家から家路に付こうとしていた。
「・・・うん、面白かった。こう・・・なんでやねんってのが」
「なぜだ」
「うん?」
どこからともなく声が聞こえる。
「・・・きのせい・・・」
「オレがなぜだと聞いているのだ。なぜ答えぬ!」
瞬間、夕暮れの空に赤い霧が立ち込めた。
「!」
赤い霧が雪奈の目前へと迫りくる。雪奈は恐怖のあまり、後ろに退いた。
「何・・・何これ・・・」
日の光が完全に消え、夕闇から夜へと世界が変化瞬間。赤い霧が雪奈の体を覆う。
「血の・・・臭い」
雪奈はその場から一気に飛び上がると、空中で体を静止させる。
「・・・浮いてる」
空中からゆっくりと地面に足をつけると、赤い霧の奥に向かい言葉を放った。
「よくわからないけど・・・なんとなく分かりました」
雪奈の瞳が、うっすらだが色を変化させていく。
暗がりの中では確認を取りにくいが、間違いなく黒い瞳が深いく黒い紫色に変化。
だが、変化はそれだけではなかったようだ。
「・・・」
自分の親指と人差し指の先を口の中にいれ、その生まれたものを確認する。
「牙・・・昨日の夜、わたしを噛んだのはあなたですね?」
「そうだ、そして私を噛み返し私の力を奪った・・・」
暗がりの中に血で生まれた霧が集まる。そこには1匹の茶色い毛並みをした柴犬の子犬が佇んでいた。



「・・・ちょっと可愛いかも」
「可愛いことなどあるか!貴様のせいで私は力を失いこんな惨めな姿になりはせたんだぞ!」
「・・・しゃべると可愛くない」
ちょっと残念そうに雪奈はつぶやく。
「貴様が吸血鬼というならば、早く私の力と血を返せ」
「・・・お断りします」
「なっ?!」
「だって・・・あなたはまた人を襲うでしょう?」
「当然だ」
「ですからダメです」
「言うことを聞け!」
「嫌です」
「ぐっ・・・ありえん、貴様は本当に私の子なのか・・・」
「そうですけど・・・ダメです」
「ふざけるなぁ!」
その言葉を放った瞬間、子犬が鋭い牙をむき出しにし襲い掛かってきた。
「!」
べちん。
雪奈は学校指定の茶色い鞄でその子犬を横から叩き落とす。
どごっ!
さして力を込めたように感じない一撃で、その子犬は塀の中に吹き飛ばされ埋め込まれる。
「あ・・・鞄・・・」
鞄の持ち手が外れていた。
「むぅ・・・手加減が難しい」
鞄を持ち直しつつ、その埋め込まれた子犬に視線を向ける。
「ぐっ・・・親である私に手をかけるとは・・・貴様本当になんなんだ・・・」
消え入りそうな声をだし、それでもなお戦おうと塀から抜け出し構えを取る子犬。
「吸血鬼です、たぶん」
その瞬間に、あたり一面の空気がかわった。



「くっ、結界か」
「その通りよ」
雪奈は後方を振り返る、その先には白地の二尺袖に赤い袴をはいた少女が立っていた。
「おお・・・巫女さんだ」
「あなた、大丈夫?」
その少女は雪奈の横まで来ると、子犬に対峙する。
「あれ?なんか昨日感じた時よりだいぶ弱ってるわね」
青く、長いポニーテールを揺らしてその子犬に目を向ける。
「うそー、昨日あんだけ邪気だしてたから気合入れて用意してきたのにー」
不満そうに両手を腰にあてつつ、その子犬に視線を送る。
「あなた・・・怪我はなさそうね、危ないから後ろにさがってなさい」
そう言うが早い、袖の中からお札を3枚ほど取り出し1歩前に出た。
「はあ・・・」
その言葉に従い、数歩後ろに下がる。
(あ・・・)
真横にたった巫女服の少女に視線を送ると、フルフルフルッと雪奈は首を左右に振る。
「・・・対魔師か」
「そうよ!覚悟しなさい吸血鬼」
「くっ・・・」
吸血鬼は・・・子犬の姿を霧に変えて、空へと舞い上がろうとする。
「がっ」
しかし、それはすぐに失敗をした。
「結界を張ったって言ったでしょ?さあ、大人しく消されなさい」
「オノレ・・・」
今度は一気に、巫女服の少女に向かって駆け出した!
「ばかな子!」
お札の1枚を片手に持ち、それに備える!
「ふっ!」
子犬の形に戻った吸血鬼は、巫女服の少女の前で方向を横に飛び跳ねると一気に雪奈へと踊りかかる。
「力さえ戻れば!」
子犬の短い爪で、雪奈に襲いかかろうとする。
「ダメ」
雪奈は片手を伸ばして、子犬の顔をひっ掴むとそのまま上空に放り投げる。
「んなっ?!」
落ちてきたところに子犬の首根っこをひっつかんだ。片手で動きを封じ込めたのである。
「はい」
「あ、ありがと・・・って!腕!怪我してる!」
雪奈の左腕から血がしたたり落ちている。先ほどの爪がかすっていたようだ。
「・・・大丈夫、すぐ治るから」
その言葉通り、子犬の短い爪から雪奈の血液が離れだし傷口へ戻っていく。
「く・・・屈辱だあわわわわわわ」
子犬が口を開く、その瞬間に雪奈が腕を振り回す。
「はらほれひれ・・・」
「あー、えーっと・・・とりあえず退治しちゃうね」
先ほど構えたお札を子犬のおデコに貼り付ける。
「悪しきものに安らかな滅びを・・・」
「ぎゃわわわわ・・・・・」
その瞬間に、吸血鬼は最後を迎えるのであった。




その3

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