welcome


トップ プロフィール 小説 Blog リンク集



吸血鬼のやつ(仮)



その3


「終わり・・・かな」
「はい、もう完全にこの子から吸血鬼の気配はしません」
自信なさげに言う巫女服の少女に、雪奈は答える。
首根っこを押さえていた子犬を、両腕で抱きかかえると指でお札を剥がして巫女服の少女へ返した。
「あなた・・・何者?怪我も気が付いたら治ってるし・・・」
「あ・・・」
子犬を・・・子犬の亡骸を抱いている腕に視線を向ける。
「・・・鞄に制服・・・明日学校どうしよ・・・」
鞄の持ち手は壊れ、制服の袖は広く破けている。
「・・・まあいいや」
「それであんたは?」
「あ、えと・・・近衛雪奈です。えと、B組の・・・雛森双葉さんですよね」
「A組の近衛さんだ!この間の体育で同じチームになったわね!」
「・・・高校生にもなってドッジボールするとは思ってなかった」
「そうねー」
「でも雛森さん最後まで生き残れてた・・・すごい」
「へへー、球技には自信があるのよ!」
「おおー」
ぱちぱちぱち、と軽く拍手が雪奈から起きる。
「ってー、授業のことじゃなくて!」
「・・・んと」
思って雪奈は考えるような表情をする。
「・・・吸血鬼・・・になっちゃったみたいです。昨日の夜」
「!」
ざざっ、と一瞬にして巫女服の少女が距離を取る。
「あんたも吸血鬼なのね!」
言うが早い、雪奈に向かい残っていたお札を1枚投げる。
「悪しきものに安らぎという名の滅びを!」
先ほどの吸血鬼にあてたものと同じ効果があるお札である。
「・・・?」
お札は雪奈の右手に貼り付いて・・・すぐに地面に落下した。
「なんで!?」
「たぶん・・・体が人間だから」
お札を拾って、巫女の少女に返す。
「この子、お墓作ってあげないと」
泣きそうな表所を浮かべつつ、もう動かない子犬の頭を撫でる雪奈。
「・・・あんたほんとに吸血鬼?」
「うん、それは間違いないと思う。なんとなく分るから」
自分の牙を軽く触る。
「なんか信じられないのよね、第一吸血鬼がそんな子犬の死で動揺なんてしないわよ普通」
「・・・うん、でも牙があるとか無いとかじゃなくて・・・」
「無くて?」
「吸血鬼になった自分に何が出来るかが頭の中に流れ込んできて・・・」
そう言いつつ、体を少し浮かせてみたりする。
「・・・自由に爪も伸ばせるし」
左手の人差し指の爪を少し伸ばす。
「怪我も治るし」
そのまま自分の頬に爪を当てる。頬に1本赤い線が生まれるがすぐに消えた。
「ほんとだ・・・他に何が出来るの?っとごめん、電話」
袖から携帯電話を取り出すと、耳に当てる。
「もしもし?」
『―――――?』
「えっとー、ごめんなさい。いま1匹仕留めちゃったところで・・・・」
『――――!』
「あははははー、だってー家の近くだったんですもの」
『・・・・――――――――』
「え?は、はい!すぐ行きます!場所は!?」
『――――――――』
かちゃ、と携帯を折りたたんで袖に収めると、双葉は雪奈に向かう。
「一緒に来て!ちょっと用事が出来ちゃった」
携帯を収めた手で一枚のお札を1枚掴む。それを空に向けて念じる。
「・・・・・解」
この近辺の空間軸をずらしていた結界を解くと、双葉は雪奈の手をとって走り出した。
「え?え?」
「あんた吸血鬼だけどなんか違うような気がするの、だから分かる人のところに連れて行きたい」
「・・・えと・・・」
「で、その人が吸血鬼と戦っているから手伝いもするわ」
その言葉に雪奈の顔が少しこわばる。
「吸血鬼・・・あっちだよね」
「え?え?え?何?」
突然雪奈は双葉を抱きしめる。
「ちょっ!あんた、やめてよ?!」
雪奈の細腕からは想像もつかない程の力が入っており、双葉は抵抗するもビクともしない。
吸血鬼となった雪奈に双葉の力では敵わない。
「やだ・・・噛まないで?嫌だよ・・・近衛さん・・・」
突然の行為に身を強張らせる双葉。
「噛まないよ」
二人の体が中に浮く。
「・・・飛んでいったほうが早いでしょ」
そう言うと、思いのほか早い速度で空を飛び目的地へ向かうのであった。



「くそっ!馬鹿みたいに増やしやがって!」
ラザドは苦戦していた。
「しかし全部血を吸ってるみたいね・・・吸血鬼化してる人間は1匹もいないみたいよ?」
その後ろにリンも続く。
「だあああー!こいつらめんどくせぇ!」
吸血鬼に喰われ、ゾンビ化した集団は動きは遅いが恐ろしくタフだった。
1匹を掴み、放り投げると2匹、3匹とその後ろから襲い掛かってくる。
「キリが無いわね」
ラザドの後方からリンが腕を組みつつゆっくり付いてくる。
「あー・・・・」
そのリンに1匹のゾンビが襲いかかろうとする・・・が。
「あー・・・」
素通りして、そのままラザドへと向かう。
思えば、先ほどから攻撃を受けているのはラザドだけだ。
「・・・なんかずるくねぇか?」
「この子達は知ってるのよ?相手にしてはいけない存在というのを」
「あー・・・」
「あー・・・じゃねぇ!めんどくせぇ!」
襲い掛かってきたゾンビの腕を掴むとそのままショッピングカートの山に投げ飛ばす。
「まだかっ!双葉のやろうは!」
更に、2体3体とそこに投げ込む。
「しかし、ホントに多いわね」
投げ飛ばされたゾンビの手足をロープで縛り付け、少しずつ敵を減らしていく。
「でも動けなくしてるだけでも結構楽になってるでしょー?」
「結構っつたって・・・」
見るとエスカレーターから続々と次のゾンビが降りてくる。
「・・・かえりてぇ」
ちなみにここは大型デパートの2F、平日で人がまばらではあったが従業員も含めるとそこそこの人員がいた。
「しかしずいぶん派手に動いてるわね」
「そーっすね」
片手にゾンビの首根っこを掴みつつ、次のゾンビを蹴り飛ばしつつ・・・近づいてきたゾンビに掴んでたゾンビを頬リ投げる。
「くっくっくっ・・・いい時代になったもんだな」
とたんに二人の上から声が振ってきた。
「!」
天井から大量の血がしみ落ちてくる、そしてそこからさかさまに人の体が・・・上半身だけ男の形をなした。
「人間が食い放題じゃないか・・・」
「でたわね」
「でたな」
「ふん、どんな邪魔者かと思ったら・・・低脳な犬ころと卑しい淫魔か」
「犬ころだと!」
「ずいぶんな言い草じゃない?あんたね・・・この辺りに封じられてた人を襲う化け物ってのは」
「詳しいじゃないか?ついでに教えてくれ、私はどれだけ眠らされていたんだ?」
「300年よ、大した時間じゃないわ」
「300年・・・道理で腹がすくわけだ」
「その割にはずいぶん食い散らかしてるじゃねえか」
「これだけごちそうが揃ってるんだ、腹を満たしてもいいじゃないか・・・それに我が眷属となるべき素材が見つからなくてな」
「そりゃあ・・・ありがたいぜ!」
近くにいたゾンビをぶんなげる。
ぱしゃっ、めごっ!
吸血鬼の体は水のごとく、赤い水滴をはねさせただけでゾンビが通過した。
ゾンビはそのままの勢いで天井に激突、首が天井に突き刺さり動かなく・・・や、手足はばたつかせているが体の自由は奪われた。
「躾のなっていない犬だな」
「犬じゃねぇ狼だ!」
「変わらんさ、人狼という種族はいつの時代も下品で下劣だ。私を苛々させる」
「その台詞そくりそのまま返してやらぁ!」
「ふん、言葉の意味が分かっているのかね?」
「ぐっ」
「こいつ馬鹿だから・・・」
「リン姉〜」
「はっはっはっはっ、まあ私はこれからも食事を楽しませて貰うとするよ。君達は私の食べかすの世話でもしていてくれ」
「だから吸血鬼ってのは嫌いなんだ・・・お?」
そのとき、場の空気が一変した。
「結界か!忌まわしい・・・」
瞬間的に吸血鬼が姿を消す、上の階へと去ったようだ。
「来たな・・・早く合流しよう、めんどくせぇ」
「ええ」
言うが早い、リンは携帯を取り出すと双葉へに電話をかけだす。
結界の出現は双葉の到着と同意義だ。ラザドとリンは互いに顔を合わせ頷くと、敵を蹴散らしつつ上の階へと走り出した。




その4

inserted by FC2 system