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脱兎のごとく



第三部


「はい、タッチ」
・・・捕まった。
「うあー、参った。」
「ばいばい♪」
「え?」
春歌はそういうと・・・体育館の非常口に入る。
「あ、ずるっ」
・・・鍵が掛かってる・・・。
「ずりいいいいいいいいいいい!!!!!」
がちゃっがちゃっ!とドアノブを回すがびくともしない。
「・・・・・・」
「・・・さすが春歌ちゃん」
「・・・・・・・・・・」
あいた口がふさがらない。
「あれー?彰だけー?」
「・・・・僕だけだよ」
やられた。
僕を・・・囮にしやがった。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーなんか腹立つ!!」
がんがん扉を蹴りとばしてみるものの、すっきりしない!
「だろうね」
「でしょうね」
「まあ笛」
「まず笛」
恵子と真一が代わる代わる僕に言う。
「・・・・」
僕は笛を取り出し、笛を吹く。
「うし、ちと集まろう」
僕は笛を軽く吹いた後、さらに恵子と真一も笛を吹く。
・・・・数秒後。
「やほー、きたよー」
晃一がやって来た、鬼が笛を何人かで鳴らすのは集合の合図。
つまり、いかに逃げてる連中を囲み、捕まえるかを会議するのだ。
「なんか久しぶりだねぇ、彰が鬼になるなんて」
「春歌がいなけりゃもーちょい逃げ延びた自信があるよ」
『春歌いなくても捕まえたけどねー』
「・・・ああそーかい」
よく考えると、あの場所があんまり良くなかったのかもしれん。
「集めたのはいつものやつ?」
「ああ、確認程度だけどね」
僕たちは小さくまとまり、話を始める。
「まず、最初にターゲットの優先順位を決めたいと思う」
僕はみんなの顔を見比べる。
『おう』
「てか決まってる」
「うん・・で」
「まず見かけた順だけど、複数見つけたら春歌→野球組→弘樹」
「野球組は大志→史郎→勇太→瞬兵」
「なるる」
「野球組は運動能力の高い順番に仕留めよう、鬼にすれば心強い」
「おーけー」
「あと全員で1つずつ探しに行こう、ローラー作戦じゃないけど」
『おう』
「ほんじゃあまずはB校舎から行こう」
笛を吹いての会議の合図は鬼以外の人間にも聞こえる、つまり僕たちが集まっている事をみんな知っているんだ。だからこそ、行動を迅速にしなければならない、相手の警戒心が勝つか僕たちの行動力が勝つか・・・勝負!!



タッタッタッタッタッタッタッ・・・・。
「おっけ、二人は僕と一緒に中に、晃一は中庭で待機、一対一の状況になら無い限りあんまり深追いはしないで」
「りょうかい」
「じゃ、後で」
・・・・・。
「教室1個1個探すの?」
「そうなるけど、っと。やっぱり、目立ちたがり屋がいるよ・・・」
影になって顔は見えないが、あの体躯のよさは野球組の勇太か瞬兵だ。
「・・・行くよ!」
僕が意気込む。
「おう!」
真一もやる気だ。
「・・・の前に罠を探さないと・・・」
『あ』
恵子の冷静な突っ込み。
「・・・いや、5時まであと3時間もない。アレをやる・・・」
「お、じゃあ僕は上の階から責めるね」
「同じく、ここは彰にまかせるね」
そう言うが早し、二人は階段を上がる。
「さーて・・・いくぞ!」
僕は地面を強く蹴ると、一気に廊下を加速する。
弘樹とあの双子しか知らない僕の最大速度、僕の最大の持ち味だ。
僕の動きを確認したのか、廊下の奥の影は曲がり角に消える、2年生の教室か体育館へ通じる道だ・・・確か。
B校舎そのものは、使った事がほとんどない、長い間閉鎖されていたからだ。だから教室の配置も頭では知っていたが、実際に入った事はほとんどない。
オープンスペース・・・気配なし。
一年八組・・・異常なし。
七組・・・同じくなし。
六組も・・・。
ひゅっ!っと僕の後ろで何か音がする。
おそらく罠を引っ掛けたのだろう。
だが・・・僕の足には付いていけない・・・罠は作動から発動する、2つの肯定をなしている。
だから僕は罠が発動するよりも早く動く。
罠が発動した瞬間には僕はその場から消えている、だから罠は当たらない!
さらに走る!
五組。
次はトイレ・・・当たり!
やっぱな・・・あの影は囮だと思ったよ。
僕は急ブレーキをかけると身をかがめる。
「さて、だーれがいるのかな?」
そういうが早い、トイレの中の気配は移動する、窓から逃げる気だ。
トイレの中じゃ通り道は2つ、僕のいる入り口からか、窓だ。
そしてその窓の先には・・・。
「はい、通行止め」
晃一の声が聞こえた。
そう、
「うへ・・・」
そこにいたのは・・・史郎、野球組で一番タフなやつだ。
「残念でした・・・タッチ」
「・・・やられたよ」
頭をぽりぽりと掻くと、笛を取り出す。
『ぴゅうーーーーーーーーーーーーーーー』
「ナイスだよ晃一」
「うんうん」
「はぁ、なんでばれたのかな・・・」
トイレから出てきがけに史郎が嘆く。
「ほら、僕だから」
「あっそ。まあ、お前が鬼になった瞬間に逃げ道を複数確保しておかなかった俺が悪いんだけどな」
「ははははは、複数あったらそれら全部潰すよ」
「はっ、参ったねそりゃ」
「まあ、よろしく。それで、俺は何をすればいい?」
「いぶりだし、晃一と数分刻みで中庭を通りながらA校舎をしらみつぶしに頼む」
「おっけ、お前は?」
「僕はB校舎をいぶりだし」
「おっけい、人数絞れたら組もうな」
「お、いいね。乗った、どうせ最後は勇太か弘樹だしね」
「ほんじゃ!」



僕は再び後ろにさがる、多少は助走が必要だからだ。
この校舎では一瞬たりとも気が抜けない。
あの春歌が仕掛けた罠でいっぱいだからだ。
やっかいな状況だよ本当に。
1年生の教室を抜けると僕は少し、本当に少しだけスピードを落とすと、コーナリングをこなす。
次は2年生の教室だ。
「無駄に教室が多いのが面倒だ!」
僕はコーナリングでロストした時間を戻すべく、全神経を集中させ、そこらじゅうの教室の中から気配を感じつつ、それでなお加速をした。



「・・・・罠しかない」
僕が走った後・・・そこは言わば惨劇だった・・・、石灰が飛び、消火器が散乱し、机やイスがそこらじゅうに転がる。
「春歌のやつ・・・人を殺す気かよ・・・」
『そーでもないよん♪』
「む・・・春歌・・・」
1年生の教室との曲がり角のところに春歌が立っていた。
『やっほー、鬼さん今日は♪』
そこは調べたはずだけど・・・ああ、なるほど。
「こんにちはじゃねーよ。まあ、僕が鬼になること事態は構わないけど・・・」
僕は彼女の方を向く。
『うんうん』
「僕をダシ使って逃げたのは、許さん!」
『べー』
むか。
「まあ、とりあえず」
『うん?』
「どかーん!」
僕はそう言うと投げ放たれてた椅子の一つを蹴り上げる、そして窓の近くにあった掃除用具入れにぶつける。
・・・その上から鏡が一つ落ちる。
パリーン!
『あーー』
「さっきトイレで史郎を捕まえた時に、違和感があったんだよ・・・まあ、もうすぐ壊される校舎にソレがなくてもおかしくはなかったから放置してたんだけども・・・お前が使ってたのか」
『彰君も使いたかった?』
「まあね」
春歌は鏡の反射を利用してあらゆるところに目を持っているようだ。
それなら、鬼のいる場所を常に見ていられる、相手の1歩先の行動が取れるってわけだ。
「それで・・・声は糸電話の容量かな?」
『ピンポーン』
「そーかそーか、それなら話が早い・・・捕まえるぜぇ」
『フフ、出来るものならね、もうこの学校はあたしのお城だもん』
「ああ、やってやるさ、首洗って待ってな。」
『それじゃあ・・・またね』
「ったく、面倒なことをしやがって」
僕はそう言うと、オープンスペースの中に設置してある春歌の鏡を確認する。
「なるほど・・・こりゃあ厄介だ。今日は春歌後回しだな」
「彰!上に弘樹だ!」
中庭の史郎が叫ぶ。
「来たなメインデイッシュ」
僕は階段に向かい・・・やっぱやめた、体育館に向かう。



僕は体育館に入って、先ほど弘樹が開けた天窓を目視できる位置に身を潜めた。あれをもう一度やる、そう思った。
『パリン!』
上から割れたガラスの破片が落ちてくる。
来たな・・・・。
程なく、弘樹が上から落ちてくる。
「いらっしゃーい」
僕は落下地点のすぐそばに立つ。
「うへ」
さすがの弘樹も諦めたのだろう。まっすぐ落ちてくる。
「なんちゃって」
「え?」
弘樹の体は落下してる最中に弧を描き、壁に足を着き、そのまま僕から離れた位置に下りる。
「くっ!」
しくじった、ワイヤーか何かだろう、それで天井から体をつるし、落下してるとみせかけ、僕の意表をついたんだ。
「逃がすか!」
初速は弘樹の方が明らかに速い、それでも僕は弘樹を追う。
僕が体育館から出ると、弘樹は既にA塔入り口の位置にいる。
僕もその影を追う。
A塔のおっかけっこを楽しみつつ、そのまま外に抜けフェンスごしに走る!
・・・・いない。
「くっそ・・・撒かれちゃったか。どこに消えやがった」
ほんの一瞬前まではその影を捉えていたのに、いったいどこに消えたのやら。
・・・・フェンスの外か?遠くに微かだけど人の気配を感じる。
「・・・・外に行くのは反則だっつうに・・・」
僕は地面に耳をつけ、足音をはかり距離を計算することにした。
「結構・・・遠い、これは・・」
「・・・・この気配は・・・」
僕は笛を持つと全員集合の緊急サインを送った。



「壊し屋が来た」
「へ?」
僕は全員を集めるとB塔の屋上に集めた。
「壊し屋だよ壊し屋、大人の歩幅で、重量のある荷物を持ってるような足音が3つ近づいてくる」
「でも卒業式まで壊せないんじゃないの?」
恵子が言う、確かにそうだ。
「様子見かなぁ?この校舎をどうやって壊すかの算段でもしに来たのかな」
晃一が可能性の一つを示唆する。
「うーん、それだと巨大ハンマーやらロープやらは持ってこないと思うんだけど」
壊し屋の常時装備、重さ8百`はあるハンマーに五十b近くあるロープ、多分持ってきている。そんな足音だった。
「本当に壊し屋なのか?」
もっともな疑問を瞬兵が聞いてくる。
「それを確認するべく弘樹が行ってるよ」
とか話をしてると弘樹が帰ってくる
「・・・壊し屋だったよ・・・しかも重装備だ」
「うへぇ」
「大志の親父さんも混ざってた、強敵だよ。あとオレの兄貴と兄貴の友達の北川さん」
「うあぁ、最悪」
大志のお父さん、大志以上の力の持ち主で壊し屋の副頭領だ。
そして残りの2人は壊し屋集団の中でも群を抜く実力者たち。
「会話から察するに、もう使われていないB塔を先に壊しておくんだとさ」
「・・・・」
「・・・遊び場減っちゃうね」
春歌がぼそっと呟いた。
「そうだな・・・」
「なんか面白くないな」
「壊してる最中は学校にもは入れないだろうしね」
「解散は・・・まだ早いなぁ」
「まだ来ないね、壊し屋」
「・・・・」
みんな口々に言っている・・・が、すぐ沈黙が流れる。
「・・・やるか・・・」
僕は意を決した。
「異議なし」
と、弘樹。
「まだ、罠全部使ってないしね。」
と、春歌。
「不完全燃焼は趣味じゃない」
「邪魔者は排除するのみ・・・だね」
「親父を潰す!そして後でボコられる!」
『おいかえそー!』
うんうんと、一同首を振る。
「それじゃあ・・・やりますか」
『おー!』



「ほんじゃあ・・・いつも道りだけど、春歌と双子が罠の強化」
『はーい』
「野球組、連中の正確な位置を教えて、出来れば到達時間もね」
「りょうかい」
「その他は足止め用の道具、作るよ」
「おーけい」
「それじゃあ各メンバー、相手はあの壊し屋だ、この町一番のパワー集団が相手だ、捕まらないように気をつけてくれ。油断するな、深追いもするな、やばくなったら即逃げる」
『おう!』
「それじゃあ散開」
各々が配置に走り出す。
「珍しく気合は入ってるじゃん」
「弘樹・・・お前は気合は入ってないのか?」
「体からあふれんばかりさ、大人たちに僕の実力を見せ付けられるかと思うと・・・」
「大人しく下がる連中じゃないしね、壊し屋・・・全力で追い返す!」
「怖いねぇ彰と弘樹は」
「そういう晃一はどうなんだよ?」
「オレはほら、逃げるから」
「そーかい」



「来た!」
あれから僕らは5分ほどで作業を終え、B塔の屋上で迎撃体制の準備をした。罠班は今か今かとB塔入り口で待ち構えてるはずだ。
「まずは挨拶代わりに・・・」
僕は1つ野球のボールに似たゴムボールを手にした。
「これを投げてからすぐ大志、お前の持ってる方を投げるんだ」
大志の手元にあるのは・・・拳大の石だ。
「こわしやああああああああああああああ!!聞こえるかああああああああああ!卒業式まで校舎はぜええええええええったいいいにのこすからなああああああああああ」
僕は大声で叫ぶ!
「いいかあ!!今すぐ帰れ!!ここは今は僕たちの遊び場なんだあ!!」
「悪ガキども!そこは立ち入り禁止だ!!今すぐ降りてこい!」
大志のお父さんからの返事だ。
「やっぱ帰れと言われて帰るタマじゃないか・・」
弘樹が呟く。そりゃそうだ、仕事なんだし壊し屋だし。
「うっせーやーい!帰んのはお前らだ!」
僕は外野手のごとくボールを思いっきり投げつける、狙いは・・・大志の親父のストライクゾーン!
続いて大志が思いっきり投げる!
「甘い!」
弘樹の兄貴が超巨大ハンマーでそのボールを打ち返す!
バン!
ボールはハンマーに当たった瞬間に破裂した。
そして・・。
「2つ!」
ハンマーが大志の投げた石を打ち返す!しかしその瞬間・・・。
バギーン!
ハンマーがへし折れる。
「へっへー、まず1人封じたぜええ」
もはや柄の部分しか残っていないハンマーを見つめる弘樹の兄貴。
いえい、っと僕の後ろではハイタッチ。
「・・・なるほど、悪ガキども全員揃ってるわけだな!」
「ハンマーの借りしっかり覚えておくぞ!彰くん!」
「返しに来なくていいから帰れ!」
「帰ると思っていないから先制攻撃をかけたんだけどね」
ぼそっと勇太が呟く。
「まあそこはそれ」
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!まっとけガキ共!特に大志!」
「うげ」
「人様の商売道具を手にかけるっちゃぁ許されん!全員たっぷりお仕置きしてやるからな!」
そういうが易し、走り出してB塔に向かってくる壊し屋さん方。
僕たちも行動開始だ。



「大志・・・南無」
「いまさらかよ!」
「僕もただじゃおかれないだろうなぁ、兄貴のハンマー壊しちゃったし」
「いやーっはっはっはっ」
「さて、行くか」
「その前にアレ、あのハンマーどうやって砕いたの?」
史郎が僕に聞いてきた。
「液体窒素だよ、理科室から拝借してきた。ボールの中に圧縮された窒素をボールの中でかき混ぜてボールがはじけた瞬間に空気中で冷やされて少量の液体がハンマーを凍らせる、凍らせた場所はハンマーの柄との繋ぎ目」
「狙ってできるか・・・普通」
「まあ、液体窒素っていってもほとんど気体で、しかも空気より重いから、下のほうを狙うのは楽っちゃ楽だよ。弘樹の兄貴ならハンマーで打ち返しにかかると思ったから」
「ほんで、劣化したハンマーに重いスピードの石をぶつけると・・・」
「込められた力にハンマーが耐えられなくなった・・・ってことか」
弘樹が正解を付け加える。
「そういうこと」
「・・・・・なるほど」
晃一・・・わかってるのか?
「それより下だよ、下の連中の話を聞かなくちゃ」
僕は春歌の設置したスピーカー内蔵(?)糸電話に顔を向けつつ鏡の角度を変える。



「春歌、そっちはどうだ?」
『動きなしだよ・・・入り口のところで罠に気づいたみたい、工具箱をガチャガチャやってるね』
「罠解除中?」
『そんな感じ』
「遠隔操作で仕掛けてみたら?」
『何度か仕掛けてみたけどすぐ離れちゃうのよー』
「そーか・・・どーするかなぁ」
『やっぱ肉弾戦だろ!』
「瞬兵か、肉弾戦は向こうのが有利だろ」
『でも地団駄踏んでるわけには行かないだろ、放っておいてどうにかできる相手じゃないんだから』
『それはそうだけど・・・』
「早まるなよ」
『弘樹の兄ちゃんが一人になった』
「ぉ、いいな」
『他の教室の窓から入ろうとしてるのかもね』
『一人になった今がチャンスだね』
「ん、そんじゃ1年生の適当な教室から招待してやれば?」
『そうね、各個撃破が基本でしょ?』
『手だしていいのね?』
「ストップ」
弘樹が口を挟んできた。
「兄貴の相手は俺の役目でしょ」
「勝てるんか?」
「今日は勝つよ・・・罠もあるし」
普段勝ってないだろ・・・それ。
「弘樹・・・それなら史郎と晃一もついていってやりな」
「むぅ」
「ここ一人でもいいなら・・・」
晃一がにゅっ・・と顔を出す。
「今日は絶対に勝つのが目的・・・おーけい?」
「・・・わかったよ」
「みんな、まあ聞いての通り。弘樹が一人ハッスルするんでサポートよろしく」
『まかせろ!』
通信を終了させる。
「うし・・・いってきます」
小さく気合を入れると、立ち上がる弘樹。
「いってらっしゃい」



弘樹が階段を降りると同時に1年の教室の扉が開け放たれた。
弘樹の兄貴と弘樹達3人が対峙するのに対して時間は掛からなかった。
始まる。
廊下の中心に立ちふさがる弘樹達。
弘樹が身を低く構えつつ、前進。最初に仕掛けるのは・・・史郎だった。
「うーりゃ!」
史郎が思いっきりこぶしを振るう。
それを受け流す兄、それをカウンターで蹴りを見舞う。
そのタイミングを見計らうかのごとく晃一が軸足に足払いをかける。
「・・・見事なコンビネーションだ」
だが・・・蹴りを入れられた軸足はびくともしなかった。
「なんじゃそりゃ」
晃一が嘆く。
「兄貴の足腰は異常なんだよっと」
弘樹が兄の胴を思いっきり蹴り飛ばす。
「ぐっ」
弘樹(兄)がよろける。
足に意識を集中してた分、他の部位にガードが甘くなってたようだ。
「ぐっ」
史郎がさらに追い討ちをかける!
「うらぁ!」
よろけた体に体当たりをかけ、一気に吹き飛ばす。
「く・・・」
「晃一!」
弘樹が叫ぶ。 「あいよ!」
その瞬間、晃一の手元で糸が煌めく。
「しまっ・・・」
ばさっつ!っとネットが弘樹(兄)の体の自由を奪う。
「いえい!」
さらにグルグルと体の自由を奪うと屋上に連行。
捕虜を一人確保する結果となった。



「・・・誰もいなくなった?」
弘樹(兄)を捕まえてからというもの、残りの壊し屋が姿を消した。
「どういうこと?」
『わかんない、瞬兵くんたちが索敵しに行ってるけど学校全体見た感じだと、敷地内にはいないみたい』
「んー、どうなんだろ」
「お前たち・・・どんな仕掛け作ってるんだよ」
弘樹の兄貴がこっちを覗いて唖然とする。
「糸電話の延長だよん」
弘樹(兄)は今は自由の身だ、一度敗北して捕虜となった人間とはいえ、ある程度知った仲であるからね。拘束をしなくとも逃げ出すような真似はしないだろう。
「んー兄ちゃんなんか知んない?」
「知ってても教える訳にはいかないね」
「何だよ捕虜だろー、できる限りの情報は教えろよー」
「自軍の情報をペラペラしゃべる捕虜はそうとう根性ないぞ」
「やっぱり教えてくれないよねぇ・・・」
まあ、この人は拷問にかけられても話さないだろうな・・。
『それでどうする?』
春歌が質問してくる。
「どうするって言われてもね・・」
うーん、とみんなで首をかしげる。
『あ、敵来たよ』
僕は慌てて鏡を覗く。
「・・・あーらら、連中捕まってるじゃん」
「うへぇ・・・」
「しかもあの団体様・・・壊し屋の大半の人間に・・・俺たちの親父たちも来てるじゃん」
「ダメだなコレは、早めに逃げ出すか」
『そうだね』
「あーストップ、みんな聞いてくれ」
弘樹の兄貴が何か言い出す。
「ん?」
「今日の事は怒らないでやる、俺を縛りつけたこともハンマーを壊したことも許してやる」
「え?」
それは意外な発言だ。このあとのお説教は覚悟してたんだけど。
「弘樹以外ね」
「やっぱり?」
そこは悲しい現実だね。
「今日ここを壊すのは、俺たち壊し屋だけじゃないんだよ」
屋上から顔をだすと、下には村中の人間が集まっているような人数だ。
「こりゃあすごいや」
晃一が呟く。
「さあみんな、下に降りるぞ」
僕たちを下に促しつつ、階段を降りる。



「よぅ、悪ガキ共・・・これで全員か?」
みんなで下に降りると、僕の親父の顔もあった。
「・・・うん」
「何・・怒りはしないよ、お前たちは俺たちの子供なんだからな」
そう言うと親父は僕の頭をクシャっと撫でた。
「で、父さん。何なの?」
「なーに、簡単な事だよ。」
そう言うと後者を眺める。
「今日・・・この学校を壊す。俺たち全員がここで学んだ大事な学び舎だ」
校舎を見つめたまま親父が話しだす。
「・・・」
「今のお前たちは使ってないがな、B校舎だけを先に壊すという話を聞いてね」
「・・・うん」
「俺たちの校舎の最後を見届けよう・・・そう思ってみんな集まったんだよ」
「お前たちが時間稼ぎしてくれたおかげで間に合ったよ」
「・・・」
「この校舎とももうお別れなんだ・・・わかるだろ?」
「・・・ん」
校舎を眺めなるお父さんは・・・少し悲しそうな、嬉しそうな微妙な表情だ。
「さあ、来るんだ。お父さんも久しぶりにハンマーを持って参加するぞ、お前もやるんだ」
笑いながらお父さんは馬鹿でかいハンマーを担ぐ。
「うん!」



・・・・その後、約3時間かけて校舎を各自で持参したハンマーのみで粉々にした。







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