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第9話:森の中の影



「さあ、襲って来い」
アルフは剣を低く構え、木々の生い茂った森の中を駆け抜ける。
「・・・来た!」
上方より2匹の猿がアルフに飛び掛ってきた!
アルフは邪魔な木の枝を切り裂きつつ、上方の敵を迎え撃つ。
その瞬間左右からも2匹の猿が飛び掛ってきた!
「・・・しっ」
アルフはそれを後方に飛びかわしつつ、上方に向けてた剣を水平にし横なぎの1撃を放った!
『ケケーーーー!』
『ゲヒャーーー!』
アルフの放った1撃は左右から襲い掛かってきた2匹の胴を両断、そのままの勢いで横にあった大木もまとめて切り裂く。
『ギャーーーッ』
そんな2匹の犠牲もお構いなしに、上方からアルフの前に着地した猿が2匹飛び掛る!
アルフに剣を戻す時間は無い!
そう思えたのも束の間、アルフは剣から手を一瞬放し持ち方を変えるともう一度横なぎの1撃を放った!
『キシャーーー』
「1匹・・・仕損じたか」
その一言が表わすように、アルフが両断した猿は1匹だった。
「・・・・フォレストコング・・・の改造版かな」
アルフが死骸に目を一瞬落とすと、その猿は茶緑色の体毛を生やした1mくらいのサイズの猿であった。
顔には痛々しいほどの縫い跡が伺える・・・合成獣である。
そんなことを考えつつも前方の木を思いっきり突き刺す。
『ゲギャギャギャギャッ!』
木の反対側に先ほど逃した猿が待ち構えていたようだ。
アルフは木から強引に剣を引き戻すと、その木を両断し反対側の猿を確認する。
見事に木ごと両断されている・・・木ごと刺された時点で事切れていたのだろうかそれは確認できないが。
「これで4匹・・・あと7匹っ」
アルフは気配を探りながら、その場から一気に森の奥へと大地を蹴る。
「・・・・・・・影円陣!」
アルフの体に伸びる影が円状に広がる。
野生動物を森の中で、しかも高速に移動しながら探るのはとても難しい。
アルフは影を広げ、周りの生物の位置を探っているのだ。
「・・・そこか!」
アルフは再び剣を手から離すと、胸元から短剣を取り出し左前方に投げ放った!
『ひゃっは!』
そこには今まで斬った猿よりも一回り大きいサイズの合成獣がいた。
アルフの放った短剣はその猿の胸元に突き刺さるっ!かの様に見えたが毛皮に弾かれた。
「こいつが・・・親玉だな?」
アルフは一気に距離を詰めようとする、がその間に3匹の猿が割り込む。
3匹は代わる代わるアルフに爪を突き刺そうと、その体を引き裂こうと腕を振るう。
アルフは鎧などを着けていない、1発でも当たれば動きは鈍り一気にピンチに陥るだろう。
「邪魔だぁ!」
アルフは前進することを止めず、その手に持つ剣を回転させ猿の爪を腕ごと切り裂いた!
しかし、猿も諦めてはいない。獣には腕が無くても足が、爪が無くとも牙がある。
ボス猿を守ろうと、腕を切られてもなお3匹の猿はアルフの前に立ちふさがった。
「くはは」
その瞬間、後方のボス猿から丸太のような腕が伸びてきた!
前方を守っていた猿の1匹の腹を突き破りアルフに襲い掛かる!
さすがのアルフもこれには意表を付かれた、スピードの乗っていた体を強引に押しとどめると右後方へと間合いを広げる。
「ち、役に立たん雑魚だ」
ボス猿はそう言い放つと腕にまとわり付いた猿を引きちぎり・・・むさぼった。
「腹ごなしにもならんときたもんだ、とんだ部下だよ」
「・・・しゃべれるのか」
剣の切っ先をボス猿に向け、呼吸を整えつつアルフはボス猿を睨み付ける。
「ああ?ああ・・・しゃべぇれるぞ、オレはぁ人の言葉がわかるぅんだぁ」
そう言いながら、腕を切られたもう1匹の猿の頭を掴み・・・アルフに投げつけた!
『ギギャー!!』
「そうか、じゃあ聞くが・・・」
アルフは投げつけられた猿を真っ二つに切り裂きながら話を続ける。
「今日はガルーダは来てないのか?」
返り血もぬぐわず、アルフは剣を元の位置に戻す。
「ああ、あの鳥野郎かぁ・・・あいつなら・・・」
そう答えつつ、もう1匹の猿に腕を伸ばす。
さすがに仲間が投げつけられ殺された姿をみて恐怖したのか、手の届く範囲から猿は脱出。
アルフとの距離を取り森の奥へと姿を隠そうとした・・・が。
『ゲギャギャー!!!!』
「来てるぜ?」



その奥から声が聞こえると、共に逃げこんだ猿の悲鳴と共に姿を現したのは・・・。
「ガルーダか」
「ひゃっはっはっはっ、名前まで覚えてくれるとは光栄だね!だがオレもこの肩口の傷をしっかり覚えてるぜ!」
その肩口の傷は完治しているが、羽毛までは生え揃っていないようだ。
「話し込んでるんじゃねえよ」
ガルーダの横から顔をだすもう1匹の合成獣・・・大柄の狼男が顔をだす。
「この間の奴か」
「あの親父はでてこねぇのか・・・」
「森の外で待ってるよ」
「・・・そうか」
狼男はアルフには目もくれず、森の外の方に体を向ける。
そこに、アルフの剣が割り込んできた。
いつのまにか、アルフがガルーダ達のほうに体を近づけていたのだ。
・・・真横にボス猿の姿があるのにも関わらずに。
「何の真似だ小僧」
「言っておくけど、おっさんが待ってるのはオレであって貴様じゃないの。OK?」
「・・・・ウータイッ」
「は、はひっ」
「とっととこのチビを・・・・・っ!」
狼男は言い放つと同時に後方に跳び下がる。
ガルーダは上方に飛び上がると、手短な枝に足をかけてアルフを見下ろす
「・・・・言ったよね、おっさんが待ってるのはオレだって・・・」
アルフの剣がウータイと呼ばれたボス猿の顔をめりこんでいた。
・・・さっきまで狼男のいた位置を通過してから。
「なるほど、面白そうだ」
「あれはオレの獲物だ・・・手を出すんじゃねえぞ」
ガルーダは狼男をひと睨みすると、とある事に気づく。
「クソ犬っそこから離れろっ!」
「もう遅いよ・・・影沼陣」
「ぐはっ、なんだこりゃっ?!」
狼男が気づいた時にはもう遅い、アルフの体から広がっていた円形の影が狼男の足をその中に引きづり込んでいる。
「普段のオレには出来ない芸当だけどね・・・」
アルフは胸元の青のオーブに服の上から手を重ねていた。
アルフの得意な影魔法といっても、大掛かりな魔法には呪文が必須だ。
だがそれを青のオーブの力で省略し、狼男に気づかれずに発動させたのだ。
「もう、逃げられないぞ」
体をじたばたさせていても剣を持ったアルフに届くわけも無く、足も動かない。
そんな狼男には視線を送らず、ガルーダを見据えるアルフ。
「どうした、助けに来ないのか?」
アルフは上方のガルーダに視線を向けつつ剣を水平に構える。
「ま、まっ」
そんな狼男からの叫び声を尻目に、アルフはガルーダに視線を向けたまま・・・狼男の首をはねた。
「・・・さて、もうお前ともう1匹・・・あと2匹だけだ」
「オレ一人で十分さ」
「もう1匹は監視役だろ?こっちの気配をうかがう視線には殺気や怒気が感じられない」
「それがわかっている上で本気を出していいのか?」
アルフは少し考えるように視線を剣に向けると、再度ガルーダに向きなおす。
「本気なんか、出さないさっ」
そう言い放つと、ガルーダのとまっていた木を斜めに切り崩す。
「ぐおっ」
さすがに予想外だったようだ、ガルーダは体制を治しつつ次の木に足を下ろすのが一瞬遅くなった。
「あまいっ」
周りの木をうまく蹴り上げ、一気にガルーダとの距離をアルフは詰めていく。
「だあああああああああ」
アルフはその巨大な剣を重力任せに思いっきり投げつけた!
「くっ」
これを腕で止めるわけも行かず、ガルーダは空中で身を翻しかわす。
剣の通った後をアルフが追うと、地面に突き刺さったその剣を一瞬で抜きなおし再度ガルーダに襲い掛かる。
空中で崩れた姿勢を立て直しつつ飛ぶような器用なことをガルーダは出来ず、アルフから数歩離れた程度の距離に足を下ろす。
「このやろ・・・」
ここで逃げても剣にやられるだけだ、そうガルーダは判断したのだろう。
退かず、距離を詰めに掛かる。
「こんな森のど真ん中でっ」
ガルーダの反撃だ、両手の爪がアルフを襲う!
アルフは剣を水平に構えつつそれをかわし、爪の部分を剣の柄やグリップではじく。
「そんな馬鹿でかい剣を!」
防がれるのもお構いなしに、その爪が右からも左からも襲い掛かる。
「振りまわせるわけないだろうがっ!!!!」
言葉と同時に襲い掛かる爪が、アルフの衣服を皮膚を切り裂く。
徐々に肩口や両腕から血が滲み出す!
アルフは剣を捨てると、体を1回転させその猛攻から難を逃れガルーダの右側に片膝で着地する。
「っ、さすがにしんどい」
そうつぶやくアルフは、膝に右手も使いやっと体を持ち上げる。
そんな姿を知ってか知らずか、一気に距離を詰めてガルーダが勝負に出た!
「くらえっ」
右足を突き出しガルーダは回し蹴りをアルフはかわし、その反動でガルーダの横をすり抜ける。
「ぐはっ!!!」
その瞬間勝負がついたようだ。
真横を通り過ぎようとするガルーダの爪が、アルフの肩口を捉えていた。
しかしガルーダの脇腹には、いつ取り出したのかアルフの手から伸びだ短剣が深々と突き刺さっていた。
「さっきボス猿に投げた奴だよ」
「膝をついたときに・・・拾っていたのか・・・ぐはっ」
アルフは剣を引き抜き、弱ったガルーダの首元に1撃を加え・・・気絶させた。
「ふう」
アルフが一息つく頃には、辺りから殺気が消え元の森の静けさが戻りつつあった。




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