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第3話:北門での攻防



「うはぁ・・・」
城の近くまで来ると、鎧騎士の暴れまわったその爪痕は激しい。
粉塵が舞い上がり、未だに倒壊の止まらない外壁もある。
「こりゃあ・・・帰ろうかな」
黒い鎧騎士そのものは城から東へと離れていってる、その後方には詰め所にいた騎士であろう団体が追いかけている。
「あれは・・・」
一瞬、アルフの視界に何かが写った。
「お姫様・・・だよな」
路地裏へ隠れるように走り去る影を、アルフは見逃さなかった。
「こっちの方向だな・・・」
覗き込むと、確かにお姫様ともう一人長身の人間が併走している。体のつくりからみて男のようだが、暗がりで確認できない。
「北に向かってる・・・ってことは!!」
嬉しそうにアルフは追いかけだす。
「くー、いきなりツイてるな」
後を追いかけながら、そんなことを言っている。
「げ」
「何が“げ”なんだ何が・・・」
近くの家の屋根から人がアルフの横に降ってきた。
「こりゃまた可愛い騎士様だな、噂の今日入ったチビか」
アルフと同様に騎士の腕章をつけている、先輩騎士だろう。
「チビで悪かったな・・・」
走ることはやめずに不満を述べる。
「まあ言うなって、あれだろあの鎧騎士は囮だ」
「うん、狙いはお姫様を誘拐。あの人に何かあったら国際問題?」
「つまり大手柄、俺様万々歳だ。チビ、お前は伝令として城の連中呼んで来い」
「・・・もうすぐ北の門か」
「ガキにゃ危ない任務っぽいからさっさと伝令!よろしくな」
「それは出来ないよ」
がっ!
手刀一閃。アルフの一撃が先輩騎士を気絶させ、体を寝かす。
「ごめんね」
近くの家の軒下に休ませると、そのまま北門に向かう。



北の門、大樹の森に最も近い門。森の手前に巣食っている超巨大魔物の監視のために普段は閉鎖されている。
「・・・今日は鎧騎士のメンテの日だから手薄なんだよね。外側の敵には強くても内側からは弱いか・・・」
アルフが北の門に到着するとそうつぶやく。
北の門の守備隊はことごとく眠らされていた。
「薬・・・かな?計画的なことで」
床にグラスが転がっている。
「オレも運がいいんだか悪いんだか・・・」
床に転がったグラスを一瞥して、再び駆け出す。



北の門をくぐるとすぐの荒野が広がり、すぐそこに2人の人影があった。
「まちなっ」
2人の人影がびくっとこちらを向く。
「・・・お前か」
お姫様と、どこかで聞いたことあるような声。
「うお!おっさんか?!」
「お知り合い・・・ですか?」
「はい、今日試験で一緒になった子供です」
月明かりに映し出された顔は、“黒衣のエドガー”本人だ。
「散歩じゃないよね?」
「おさんぽ・・・と言えばおさんぽですわね」
「元々コレが狙いで騎士になったの?」
「ああ、城の中を調べたり騎士たちのローテーションを調べるためにな」
「そっ?まあいいけど」
「あのぉ〜」
「なんでしょ?」
「私、ミューラ=フェドルフィーネと申しまして、フェドル王国の第三皇女やっておりまして・・・」
緑色の長い髪を揺らし、のほほんと話し出すミューラ皇女。
「なんで突然自己紹介してるのかな・・・」
アルフが小声でツッコむ。
「できれば見逃していただきたいのですが・・・私、国に帰らないといけないので・・・」
妙にだらだらとしゃべるミューラ皇女。
「私は自分の意思で出て行くので・・・誘拐とかではないと・・・その・・・お伝えしていただけないでしょうか?」
「まあ立場上はいそうですかとは言えないわけで」
「だめですかぁ?」
「だめですねぇ」
ドーン、と街の中で爆音が聞こえる。エドガーの仲間が未だに闘っているのだろう。
「精霊開放!!」
アルフが精霊を呼び出す、肩の上辺りに白い光の珠が浮かび上がる。
「悪いけど時間ないんでね、お話してる暇はないの」
さらにアルフは背負っていた剣を鞘のまま構える。
「問答無用か・・・しかし時間がないとはどういう・・・」
「我と共に歩みし精霊よ
     わが願いを聞きいれよ
  汝が我と共にあるのならば
       我に力を貸し、我の命に従いたまえ」
「ミューラ様、お下がりください!!」
呪文を唱え始めると、流石に緊張して剣を抜いて構えるエドガー。
ミューラ皇女も後ろへと後退する。
「我が命に従いし精霊よ
       我が求むは大地の心
  我が求むは大地の御加護
         我の心を届けたまえ!!」
一気に距離を詰めようと、エドガーが走りこむ!
「アースレインド)!!」
しかしエドガーが距離を詰めるより早く呪文が完成する。
その瞬間、アルフの前面から地割れが起こり大地が無数に割れる!轟音とともに開いた大地がエドガーとミューラの間に距離をあける。
「なっ!ミューラ様?!」
それをみて、エドガーも動きを止める。
「怪我はさせないよ、離れててもらうだけ・・・光の矢!!」
さらにエドガーの足元に光の矢が放たれる。
「ちっ」
それをバックステップでかわす。
「貴様!こんなところで魔法など・・・正気か!?」
「もちろん」
「バカが・・・巨大喰蟲を知らんのか」
地面への着弾を確認しつつ、構えなおす。
「・・・・・・よく知ってるよ」
そのまま一気に距離を詰めて、エドガーの剣がアルフに向かう。
その一撃は、腰に携えた短剣で止める。
「光の矢」
至近距離からの1発。
「ぬおっ」
それを、紙一重で交わすエドガー。
しかし体勢が崩れる、その隙にエドガーの胸部に蹴りをいれてエドガーを後方に飛ばした。
「ふむ・・・」
鎧の上からの1撃にはあまり効果はみられなかった。しかし、再び二人の間に距離が開く。
「そのでかいのはこけおどしかね?」
エドガーがアルフの背に収まる、巨大な剣に目を向ける。 「そうだとしたら?」
アルフは自分の背負った剣の鞘に手を当てる。
「実にくだらん。こけおどしどころか飾りにもならんぞ」
「オレって後衛のが得意なのよね」
そう言い、左手を上にあげる。
「重光弾・・・発!!」
拳大の小さな光の弾が無数に生まれ、アルフの周りに浮遊する。
「これでもつっこんでくる?」
「近寄りさえ出来れば・・・」
「おっさんも魔法にすればいいじゃない?」
「こんなことろで魔法なんぞ撃てるか!ここは巨大喰蟲の巣なんだぞ!」
「・・・もうちょっと頑張ってよ?」
左手を前に倒し、合図を送る。
「散!!」
それを受けた光の弾の群れは一気にエドガーに向かう。
「くそガキが」
「これで終わりっ」
「水の加護!!」
ガガガガガガガガガガ!!
数発の光の弾は水の壁に阻まれ水を蒸発させ、残りは大地をえぐった。
そして着弾と共に土煙が上がる。
「おじさま!」
「大丈夫でしょ?あんた防御魔法張ったんだから」
「ぐぅ・・・」
土煙が収まると、足を押さえたエドガー。
「貴様・・・」
抑えた足から血が流れ出していた。
「何勝手に怪我してんだよ?オレ当てないように撃ったのに」
きっ!と睨みつける目。
「コケにしやがって・・・」
「我が命に従いし精霊よ
       我が求むは大地の飛礫
  我が求むは大地の御加護
         我の心を届けたまえ!!」
アルフが再び呪文詠唱に入る。
「落石の波!」
呪文が終わると同時に、アルフの周りから巨大な岩が4つ撃ち出される。
「波による巻き壁!!」
しかしそれと同時にミューラの放った魔法の波がアルフとエドガーの間に生まれる。
ザザーーーン!!
アルフの撃ち出した岩はことごとく波に流され、残った水がそのままアルフを襲う!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・。
「にょわっ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。
一気に大地を蹴り上げてアルフが飛び、波を飛び越えてエドガーの横に着地する。
大量に生み出された水は地割れへと吸い込まれていった。
その直後、大地が脈動しだす。
「いい感じに刺激できてるな」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。
地割れに飲み込まれた大量の水が音を立てて流れていく。
それを目で確認すると、アルフはにやりと笑う。
「ほら、おっさん。怪我みしてみろって」
突然、エドガーの足の怪我をみる。
「なんのつもりだ・・・」
「悪いな、あんたらをダシに使った。」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・。
脈打つ大地に亀裂が大量に入る。荒野の先にある森から土煙が広がってアルフたちに向かってくきた。
ボゴンッッ!!! 
爆音と共に巨大な物体が大地から顔を出す!
「やっとでやがったか・・・クソミミズ」
そう、出てきたのはミミズだ。それも常識のサイズではない、もたげた顔が遥か上空にある。
アルフはエドガーに肩を貸すと、地割れを飛び越えミューラの元へいく。
「あ・・あれは・・・」
「悪い、魔法無しで手当てしてやってあげて」
そう良いながらエドガーを街の外壁にもたれかかえさせる。
「おじさま・・・」
「それとしばらくココから動かないでね、ヤツは足音と魔力に反応するから」
「貴様・・・はじめから狙いは巨大喰蟲か」
「ほんとに悪かったって、こんなチャンスめったにないんでね」
「あの・・・」
「少し待っててね、あとで埋め合わせするから」
再び亀裂を飛び越え、巨大喰蟲の前に立つアルフ。
「オレも騎士になった理由は別にある口でね、まあこんな騒ぎがあるって知ってたら騎士なんぞにならずにもうちょい準備してたんだけど・・・」
そう言いながら背負っていた剣を手に持ちなおす。
「だああああああああああああああ!」
突然、鞘に入ったままの剣を地面に斜めに突き刺す。
その音に反応したのだろうか、巨大喰蟲の顔がアルフのほうに向く。
アルフは鞘を地面に半分以上埋めこみ、柄を握って一気に剣を引き抜く。
銀色の刀身が月夜に光る。
「動いたり魔法使ったりしちゃ駄目だからね」
アルフは自分の体よりも大きいその剣を構えると、巨大喰蟲に対峙するのであった。



『キーーーーーーーーーーー!!!!!』
咆哮を一つすると同時に巨大喰蟲の頭部がアルフへ向かう!!
「光の熱線!!」
アルフの手から放たれた魔法が巨大な頭を貫く!
ドゴッ!!
しかしさしたる効果を与えられず、喰蟲の体がアルフを押しつぶした。
・・・ようにみえた。
「危ない危ない」
間一髪のところでかわしていたようだ。
そこへ喰蟲の尾(?)が迫る!
「だありゃあ!!」
気合と共に剣を振り上げる!
アルフの剣が尾と胴体を切り離す!
「すごい・・・」
思わずミューラがつぶやく。
この巨大なミミズは体の太さも半端ではない。顔ははるか数m上に、胴回りだけで家が1軒納まりそうだ。
「でぇい!」
切り離されてもなおのたうちまわる尾に乗り、それを縦に切り開く。
シュー・・・。
大地が溶けた。
ミミズの尾からあふれた体液が大地を溶かしているのだ。
「ハズレか・・・」
つぶやくアルフに今度は胴体ごとのしかかってくる。
「光幻の道筋!!」
アルフは呪文一つ、全身が光に包まれたと思うと一瞬で巨大喰蟲の横へ逃げていた。
「だああああああああああああ!!」
横、一閃で体をなぎ払う。
「見えたっ!」
体を薙いだ瞬間に、一瞬だが光るものが巨大喰蟲の体の内部に見えた。
「重光弾・・・集!!!」
アルフが左手を上に掲げると巨大な光の玉が生まれた、大きさだけならアルフの体よりも大きそうだ。
それはさながら地上の太陽のように、まばゆい光を放っている。
「だああああああああああああ!!」
アルフはその巨大な光の玉を、一瞬光った喰蟲の胴体の中心へと放った!
ジャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!
その玉の直撃を受けた喰蟲は、その巨体を震わせたかと思うと一気に倒れこんだ。
喰蟲の体が魔法の熱に溶かされ、体液は蒸発していった。 辺りに砂煙と蒸気、そして肉のこげたような臭いが立ち込めるのであった。



「これか・・・」
そんな中、アルフは喰蟲の体を調べまわっていた。
アルフは目的のものを見つけたらしく、手を伸ばす。
「・・・つぅ」
大地をも溶かす溶解液の中に手を伸ばす。
左手の皮膚が溶けだしている中、溶解液の中から拳大の玉を拾い上げる。
痛みを堪えながら、アルフは自分の服でその目的のものを拭くと懐にしまった。
「さて、長居は無用だな」
ただれてボロボロになった自分の手に軽く息を吹きかける。
「二人とも平気?」
そういうと鞘を掘り起こして剣を収め、壁際のエドガーの元に向かう。
「手当ては・・・されてないんだ」
「ごめんなさい・・・やり方が良くわからなくて・・・」
痛みに耐え切れなかったのか、エドガーはいつの間にか気を失っていた。
「まあいいや、これ持って付いてきて」
アルフは自分の剣をミューラに渡す。
「重い・・・です・・・ね」
「エドガーよりは軽いでしょ」
「あの・・それで」
「大丈夫、かくまってあげる。オレのせいで怪我させちゃったのもあるしね」
アルフはエドガーを担ぐと、北の門に誰もいないことを確認してから街へと戻った。




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