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第二話:トラブル



「ふぁ・・・」
退屈でしかたなかった任命式を終えると、そのまま宿舎まで通された。
「今日から寝泊りはここでしてもらうから、今のうちに必要最低限の荷物を持ってきておくようにおねがいします。実際の訓練は明日以降になりますね」
先輩騎士が説明を始める。
「それとこれからしばらくの間、君たち3人は防衛を主とした巡回任務を行ってもらいます」
結局合格できたのはアルフ、エドガー、シールの三名だけだった。
「防衛?魔獣討伐じゃないの?」
「最初は防衛ですよ。城壁の外での魔獣討伐は週に一回。第一師団を中心に第一から第五までの師団員で行う決まりになっています、君たちは第十二師団ね」
「ちなみに私の兄は第二師団の隊長です」
「クレアル隊長が言ってましたよ、弟を徹底的に鍛えなおしてくれって」
「ははは」
「第三師団以上になると鎧騎士が与えられるけど、実力が伴っててもそこまで上がるにはかなり時間がかかるね」
「クレアル隊長が鎧騎士を与えられたのでさえ四年もかかったんだ、それなりの覚悟をしておいたほうがいいよ」
「四年か・・・」
ぼそっとシールが呟く。
「鎧騎士は男の憧れだもんね!僕も早く第三師団まであがりたいよ」
「ええ!あの巨大な魔導鎧を授かるのがどんな名誉な事か・・・」
興奮したように二人が語り合う。
「・・・第五師団にはどのくらい?」
アルフが口をはさむ。
「外での戦闘に出たいのかい?剣と精霊の力が伴っていれば半年もあれば上がれると思うよ?最近は魔獣の活動が活発だからね」
「小物ばかりだけどね」
「それでも数が多いから、大樹の森からどんどん新しい魔獣が生まれているって話だし」
「・・・私は特に荷物がないのだが、この辺を見て回ってきてもよいかな?」
沈黙を守っていたエドガーが口を開く。
「あ、それじゃあこの腕章を」
「騎士の証ですね!」
この国、レイル王国の印の入った腕章。階級と活躍の度合いによって腕章のつくりは変わってくるが偽造防止の細かい装飾が施されている。
「その腕章はかなり値がはるから無くさないようにしてくださいね」
「売ったらいくらくらいになるんだろ・・・」
「売らないでください!それが騎士の証明になるんですから。何も知らない人がそれみるとみんな騎士ってなっちゃうんですよ」
「前例があるのか・・・」
「それと現在、城には隣国からのゲストが長期滞在中です。あまり城の上層部には近づかないようお願いしますね」
「任命式にも出席してたフェドルのお姫様?ずーっとニコニコしてた悩みのなさそうな顔の・・・」
アルフが口を挟む。
「一国の姫君にその言い草は・・・」
シールが文句を言う、エドガーも神妙な顔をする。
「ぐぬっ」
「言葉使いにも気をつけないとそこらのガキとかわらんぞ」
エドガーが厳しい指摘をする。
「本人に言ってるわけじゃないんだからいいじゃん・・・」
アルフが縮こまってしまった。
この国の同盟国で魔道研究の盛んなフェドル王国。そこの王女様である
「身辺警護もうちの騎士団がやってるのですが、一応怪しまれるような行動は控えてください。あと失礼な発言もね」
「はーい」
「説明はこんなもんです、訓練は厳しいので今日はゆっくり休んでくださいね」
「どーも」
「それじゃあ・・・」
そう言うとエドガーは腕章をポケットにしまい立ち上がる。
「それじゃオレも荷物もってこよっかな。といっても剣と着替えだけだけど」
続いてアルフも部屋からでていくのであった。



アルフが自分の家につく頃には外も暗くなっていた。
アルフの家は城からかなり離れた小さな孤児院だ。
「ただいま〜」
『おかえりー』
「試験どーだった?」
「難しかった?」
「受かった?受かった?」
口々に質問にあう。
「受かったよ、結構あっさりと。それより院長は?」
「おかーさんなら部屋じゃないかな?」
「ありがと」
ぽんっと弟の頭を撫でる。
「おかえりアルフ」
院長が声をきいたからか、廊下の奥から出てきた。
「母さん・・・オレ、受かったよ」
「おめでとう・・・とは正直言いたくないわね」
苦笑いをする院長、アルフが騎士になるのには反対のようだ。
「荷物まとめたら表にでな」
突然きりっとした表情でアルフに声をかけ、外に出る院長。
「!」
そのただならぬ気配を感じたのだろう、アルフの周りにいた子供達は息を呑む。
「みんなはもう部屋に戻ってて、今日はもうおやすみ」
そうアルフがみんなを促す。



荷物をまとめたアルフは、家の外で院長と対峙する。
「この季節は星が綺麗だねぇ」
「・・・」
何事もないように夜空を見上げる院長。
「・・・あんたが転がり込んできて6年目だっけか」
「・・・うん」
「あんたは頭もいいし運動も出来る、何も騎士にならなくても生活するには困らないでしょう?」
「その話は前にしたよ」
「騎士ってのは国を守る仕事なんだよ?それをあんたは・・・」
「本当に止めたいのなら止めればいいじゃん。今でも騎士団へのコネ、多少はあるんでしょ?」
「それはそう・・・なんだけど、でもね?」
「でも?」
「騎士になるための勉強や鍛錬をしているあんたを見ると、ねぇ?」
「たまには一生懸命にもなる・・・ってことだよ」
「あんたはいつも一生懸命だったよ」
「そりゃどーも」
「・・・」
風が過ぎる、この季節の風はかなり冷たい。
「・・・止めても無駄だよ」
そういうと自分の剣を構える、刀身は鞘に納まったままだがその剣は試験中に使ったものとは違いとてつもなく大きい。鞘の装飾が目立ち、そのまま殴っても痛そうだ。
大人用のグレートソードサイズを凌駕するほどの両手剣だ。
その刀身は柄も合わせると2mに近く、刀幅はアルフの胴回りに匹敵するほどのサイズだ。
「やるんでしょ?」
「現役を引退した私に勝てないようなら・・・騎士なんかになっても死ぬだけよ」
院長は、今日アルフがもらってきた短剣を抜きつつ言う。今までで一番冷たい口調だ。
「いい剣ね」
「もらい物だけどね」
そういいながら距離をとる。
「精霊開放・・・疑似太陽」
暗がりだった孤児院の前に、強い明かりが生まれる。昼間の明るさとまではいかないがお互いの表情がわかる程度には明るい。
「合図はコインで・・・ねっ」
院長がコインを放り投げる。
チンッ。
二人の距離が一気に縮まる。
「だあああああああ!!!!!!!!!!」
アルフが巨大な剣を片腕で横凪に振るう。
「脇があいてるよ!」
剣の柄がアルフに伸びてきた。
「・・・開けたんだよ」
膝と肘で柄を受け止める。
「それじゃ攻撃できないでしょ」
「出来るよ」
そういうとアルフは思いっきり頭を後ろに下げる。
「だ!」
ごんっ。
気合の入った頭突きをお見舞いする。
「・・・っー」
二人そろって剣を放り頭を抑える。
「いひゃい・・・」
「あんたねぇ・・・」
「にひひひひ」
ニカッと笑うと、アルフは再び剣をとる。
「負ける気はない、けど傷つけたくない。だからこうする」
「そう・・・なら・・・」
そういうと院長は剣を鞘に収め、それを捨てる。
「最後なんだ、しっかり顔を見せて」
「うん」
院長はアルフの頬を両手で覆い、微笑んだ。
「・・・死んではだめよ?」
どーーーーーーーーーーん!
そのとき、どこからか轟音が発せられた。




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