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吸血鬼のやつ(仮)



その7


「あ・・・、あたし・・・嫌・・・・」
双葉は苦しんでいた。
干からびた吸血鬼にリンは銃でトドメをさしていた、そしてそんな姿を横目でみると双葉の瞳から涙が零れ落ちる。
「リ・・・リン・・・・・ラザド・・・殺して・・・」
「バカなこというな!」
「そうよ!」
「あいつは・・・」
「この子がやっつけたわ」
近寄ってきた近衛に双葉が視線を向ける。
「あたしも・・・近衛さん・・・吸血鬼に・・・」
急速に体が冷たくなっていく感覚が双葉を襲う、しかし普通の死ではないことも同時に感じ取るのであった。
「噛まれちゃいましたね、でもわたしと違って普通の吸血鬼になると思います」
「やっぱり・・・どうすれば・・・」
「ごめんなさい・・・バスタオル探してたら遅くなっちゃいました」
「てめぇ!何をのんきにやってやがった!最初からお前がきていれば!」
「裸になりたくなかったので・・・」
血の匂いのする雪奈のバスタオル、胸元を押さえつつ双葉を見つめる。
「ふざけてんのかっ!」
「やめなさいラザド!叫んでる暇があったら早く救護班をつれてきなさい!」
「く・・・ちっ!」
ラザドは走って屋上の淵へと向かい、そのまま飛び降りていった。
「リン・・・早く・・・」
リンの持つ銃に弱々しく手をかける。
「ああ・・・双葉ちゃん・・・」
「どいてください」
リンを押しのけて双葉を雪奈が抱きかかえた。
「・・・うまく出来ないかもしれませんが・・・」
「何を・・・」
「吸血鬼になりかけている血だけ吸いだします」
雪奈は、双葉の首元に口をつけると、今度は優しく牙を入れるのであった・・・。



「あの・・・」
翌日、教室で双葉が雪奈に声をかける。
『え?』
『あ・・・』
雪奈はどちらかといえば物静かな方、他のクラスの人間から声をかけられるのも珍しく注目があつまる。
しかも声をかけた双葉は、両腕と首筋に包帯。それと頭に大きなシップを貼っての登場だ。
「ちょっといい?」
「はい」
雪奈は席を立ち、廊下に二人で出る。
が、まだ視線を感じるため廊下から階段の方へと歩いていった。
「よかった・・・もう学校にこれたんだ?」
「うん、少し貧血気味だけど・・・」
「ごめんなさい、ちょっと吸いすぎました・・・その・・・美味しかったから」
「あはは、平気平気。ほらこの通り」
笑いながら腕を振り回す。
「あともう1個・・・噛まないって言ってたのに噛んじゃった・・・ごめんなさい」
「そんな!助けてくれるためにやったんだから!」
両手をフルフルと震わせて、頭を下げる雪奈の体をむりやり起こした。
「昼間だけど本当に平気なのね」
「うん、この通り」
窓から射す日の光に手を当てる、吸血鬼なら日の光でやられてしまうが雪奈はやはり平気だった。
「わたしも!」
雪奈にならい双葉も腕を日にあてる、もちろん平気だ。
「よかった、自信なかったんだ・・・」
「へへへ・・・それでさ・・・お礼言ってなかったから」
「いいよそんなの・・・」
「だーめ・・・こほん、ありがとうございました」
深々と雪奈に双葉が頭を下げる。
そんな行為をうけるが、どう反応すればいいのか雪奈はわからずとまどうだけだった。
「あと、これ!」
先ほどから片手に持っていた袋を雪奈に渡す。
「えっと・・・」
「クッキー!焼いたの食べて!」
貧血でふらふらになりながら作ったのだと、笑いながら渡す。
「ありがと・・・」
「あと・・・あとね・・・」
もじもじと、制服のスカートの裾をいぢりながら恥ずかしそうにうつむく。
「・・・?」
「あの・・・お姉さまって・・・呼んでもいいですか・・・?」
「え・・・えええええええ?!」
普段感情を表に出さない雪奈もさすがに驚いたらしい。
「いいでしょ!わたしっお姉さまにならいくらでも血を吸ってもらって・・むしろ吸ってください・・・みたいな・・・・」
ポッと、頬を赤らめて双葉が視線をそらす。
「や、それはちょっと・・・」
「ね?ね?いいでしょ?」
「や、お断りってことで・・・」
「ダメなのっお姉さまで!」
「第一同い年じゃないですか!」
「違うのっ、こうお姉さまに噛まれた時思ったの!」
「何がー・・・」
「わたし、この人に噛まれる為に生まれてきたんだなって・・・」
「そんなわけないですよー・・・」
「それにこれから一緒に行動することになるんですから!」
ぎゅっ、と双葉が抱きつき横に並ぶ。
「え?」
「昨日みたいなことがあったら、また手伝ってくださいね♪お姉さま」
「だからお姉さまは・・・やめてくださいー・・・」
諦めたように力なく言うと、雪奈は双葉をふりほどきその場から逃げ出すのであった。
「待てくださいー」
「嫌ですー」
廊下を走る去る雪奈の速度は、そりゃあもう速かったそうな・・・。









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