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吸血鬼のやつ(仮)



その5


「もう生存者はいないの?」
「・・・はい、もう動いてる気配はゾンビと下の階の雛森さんともう一人の男の人です」
「じゃあ・・・まずは下の連中と合流しましょ」
言うと、エスカレーターの横にあるベンチに腰掛ける。
「・・・合流しないんですか?」
いいながらつられて横に座る雪奈。
「あの二人ならそのうち上がってくるでしょ、それよりも・・・」
リンが雪奈の顔を覗き込む。
「私はエイリーン=ハーキュリーズ。見ての通り人間じゃないわ」
背中の翼を折りたたみ、収納する。座るのには邪魔らしい。
「・・・近衛雪奈です、よろしくお願いします」
「よろしく・・・それで雪奈ちゃん・・・」
「なんでしょう」
「あなたは・・・自分のことヴァンパイアって言うけど、ホントに?」
言いながら雪奈の紫色の瞳を見つめる。
「・・・よくわかりません、どうなんでしょう?」
「んー、ちょっと違うような気がするのよね」
「そうなのよね、第一ヴァンパイアなのに体が生きてるって・・・」
「お姉さんは悪魔なんですよね?」
「ええ、そうよ・・・わかるのね?」
「・・・吸血鬼の本能というか・・・頭の中に元々ある・・・ていうか」
「分かるわ、私もそう。動物でいうところの本能みたいなものよね」
「そうなんですか・・・」
「でも相手のことまで分かるのはすごいことよ?相手のことが分かるってことは相手より強いってことだから」
「・・・じゃあやっぱりわたしは吸血鬼なんですね」
「うーん、難しいなぁ。私の意見だけ言うと雪奈ちゃん、あなたはヴァンパイアじゃないと思うの」
「・・・」
「ヴァンパイアの力をもった人間・・・ってところかしら?だから日の光を浴びても平気なんだと思う」
「人間・・・」
「吸血衝動もあまり無いんじゃない?体が生きてれば血も作られる・・・外から補給する必要もないんだし」
「・・・雛森さんは美味しそうではありましたけど」
「そうねぇ、あの子美味しそうよねぇ」
二人して頬に片手をあてて、困ったような表情を作る。
「・・・ちょっと、何の話してるのよ」
「あ、来た来た」
「リン〜もう置いてかないでよ〜」
「だってこの子一人にしておくわけにはいかないでしょ?」
「えと・・・どうも」
合流した二人に改めて会釈をする、と・・・。
「こいつも吸血鬼じゃねえか」
巨大化した狼の腕が雪奈の顔を捕まえた。
「ちょっ!ラザド!」
「こいつは昼間、オレ達を騙して学校に入り込んでいたんだろ?格好の餌場まで持ってやがるんだ」
「やめなさい!」
「やめないね」
「あの・・・」
「黙れ吸血鬼、このまま手前の頭トマトみたいに握りつぶされたくなければな」
「はい」
「・・・ずいぶんいさぎいいじゃねぇか」
「ラザド!やめなさい!」
「やめないね!オレは不死者ってのがそもそも嫌いなんだ!」
「・・・えっと、ラザドさん?」
「ラザフォードだっ!」
「・・・ごめんなさいラザフォードさん、でも・・・」
「なんだよ」
「真上に・・・来てます」
どごっ!
その瞬間、天井が吹き飛び瓦礫と共に目標である吸血鬼がこの階へと飛び込んできた。



「私のディナーを逃がしましたね?」
一瞬の隙を突き、ラザドの顔面に吸血鬼が蹴りを食らわせる。
「がっ!」
腕を引き、ガードを固めようとするも間に合わなかった。
「てめぇ・・・」
姿勢を崩されつつも、その衝撃で後方まで飛ばされるラザド。
「あら・・・本命の登場ね」
「まさかこんな雑魚相手に私のゾンビ集団が後れを取るとは」
「あんたまだ復活して間もないんでしょ?だったら本調子じゃないのよ」
雪奈と双葉の手をとり、ラザドのところまで引きつつリンがしゃべる。
「ふん、だがまだ極上のディナーが残っているようだな」
その視線を雪奈と双葉にむけ、ニヤリと笑みをこぼす。
「け、ずいぶんと食欲旺盛だな腐れ吸血鬼が」
「300年分の腹を満たさねばならないからね」
「ふざけやがって!くらえ!」
吸血鬼に一気に距離をつめると、その爪でラザドが踊りかかる!
「ふん、力だけの子犬が」
爪を避けるように、両腕でラザドの腕をガード。
人間を軽々投げ飛ばしたラザドの1撃を簡単に抑える。
「ち・・・」
しかし押さえ込んだその両腕が焼け焦げた臭いを放ち、異臭を産む。
「はっ!火の付与がかかってるんだよ!触っただけでてめぇは大火傷だ」
「なるほど・・・ならば」
吸血鬼が体を霧に変えると、そのまますばやい速度で双葉の方へと迫る!
「くそっ!」
その霧に爪の1撃をラザドが加える・・・が然したる手ごたえが残らない。
「その程度のダメージ・・・わかっていれば痛みなどさして感じないさ」
「じゃあこれなら!」
双葉がお札を1枚取り出し、そのまま霧へと放り投げる。
「解っ!」
そのお札が炎へと変わり、霧を覆うように広がっていく!
「ぐっ・・・小賢しい!」
炎の中、人の形を戻した吸血鬼の牙が双葉に襲い掛かる。
しかし、その二人の間に割り込む形で小さな影が生まれた。
吸血鬼の顔面を押さえ込む細く白い腕・・・雪奈だ。
「近衛さん!」
「・・・えい」
そのまま残り火の向こうにいるラザドの方へと吸血鬼の体が投げ飛ばされる。
軽く押すような感覚で飛ばされた吸血鬼の体は、思いのほか勢いで吹き飛ばされた。
「だあああああああああ!」
待ってましたとばかりに、咆哮一つ。ラザドが飛び掛った。
実体を保っていた吸血鬼の体に、狼の腕が突き刺さった!
「がああああああああああーーーーー」
今度のダメージは大きかったらしい。
自分の体に生えた腕を無理やり掴むと、それを引き戻させ先ほど自分で空けた天井の穴へと身を翻した。
「逃がすかっ!」
腕にこびりついた吸血鬼の血を振り払い、穴へと飛び込む。
「私達も行きましょう!」
続いてリンが双葉の腰に手を回し、ジャンプ一つで穴へと飛び込みむ。



「く・・・がはっ、血が足りん」
吸血鬼は苦悶の表情を浮かべながら、屋上駐車場へと飛び上がってきた。
「ここまでだ・・・外に逃げ出したことを後悔するがいい」
ラザドの体が一回り大きくなる。
「くそ」
「満月とまではいかないが、今日もなかなかにいい月夜だ」
月光の光を浴びた人狼は、先ほどよりも強い生命力に満ち溢れている。
その後ろからリンと双葉も付いてくる・・・雪奈の姿が見えない。
「あれ?近衛さんが・・・」
リンが軽く穴のほうへと視線を向ける。
「とりあえず、今はあいつよ」
「くっくっくっくっ・・・まあよい、ここにも私の可愛い兵隊がたんまりいるからな・・・」
車と車の間から、ゾンビが無数に現れだした。
ダメージこそ負い少し辛そうだが、それでも余裕の表情を浮かべ3人に対峙する吸血鬼。
「ほざけっ!」
ラザドが吸血鬼に襲い掛かろうとする、がその目前には大量のゾンビが壁を作りラザドの行く手を阻んだ。
「邪魔だ!」
炎の付与により強化された爪で、ゾンビ集団をなぎ倒し血路を開く!
「あいつ・・・ゾンビの血を・・・」
その後方では、血の補充だろう。すでにゾンビとなった人間をかき集めて自身の血肉とする吸血鬼がいた。
「だー!もう、だからめんどくせぇんだよ!」
ラザドが近くに倒れ付したゾンビの首を引きちぎり、全力投球!
「効かんな」
その一撃は、むなしく吸血鬼の体を通過すると屋上より下へと落下していった。
「一度口にした者の血はあまり美味くないが・・・力にはなるぞ」
吸血鬼は先ほどよりも顔色がよく、貫かれた腹も元通りになっていた。
「あのとき私の心臓を貫ければ倒せたのに・・・もったいないことをしたね」
「だったら何度でも貫いてやるぜ!」
人垣の目前に悠然とリンが立ちふさがる。
「道をあけなさい、下級なる者たちよ」
その言葉をゾンビが受けると、ラザドと吸血鬼の間に1本の道が出来上がった。
吸血鬼にラザドが文字通り飛び掛る。
「くっくっくっ」
吸血鬼が今まででも、もっとも凶悪な表情を見せる。
その瞬間、ラザドの視界が青く埋まった。
車だ。
「人狼風情が!」
吸血鬼は、座っていた車をラザドに向かって放り投げると後ろから炎を放った!
どごーん!!!
ラザドの目前で車が吹き飛び、巨大な炎を生んだ!
「ぐあちゃちゃちゃちゃ!っつぅ・・・」
ラザドは体に車の部品が突き刺さり、腕には大きな火傷を負ってしまう。
「ラザド!」
「くそっ!」
慌てて立ち上がるラザド、黒煙と炎の臭いで一瞬吸血鬼の姿を見失った。
「くっ・・・!!双葉!後ろだ!」
「え?・・・あ・・・・」
ラザドが叫んだ瞬間に、双葉の後ろから実体化した吸血鬼の顔と手が双葉を押さえ込み・・・その鋭い牙を腕へ突き刺した。
「あ・・・あ・・・いや・・・!」
双葉が力を振り絞り、お札を吸血鬼の顔に近づける。
「おっと・・・しかし、確かに頂いた」
吸血鬼は口元をぬぐうと、今度は完全に実体化をして空へと身を浮かせる。
その瞬間、体から力を失い双葉はコンクリートの地面へ倒れ付した。
「このっ!」
リンが銃を懐から取り出し、撃ちまくる!
「銀の銃弾か・・・なかなかいいモノを持っているじゃないか」
直撃した銃弾は、吸血鬼の体に穴を無数に作る。
「そんな・・・」
しかしその傷口から銃弾はポロポロと抜け落ちる。
「極上の血だ・・・その娘は・・・おや?」
辺りの空気が一変する。双葉の集中がとけたせいで結界が解け出しているようだ。
「私はこれで失礼するよ!狩場を荒らした諸君、この報いはいずれ償ってもらうとしよう」
「・・・それは出来ません」
瞬間、雪奈の声が吸血鬼の背に生まれた。
かぷ。
「なっ・・・離せ!貴様!?が・・・があああああああ・・・・」
雪奈が吸血鬼の首筋に牙を突き刺す。
「まさか・・・私を・・・貴様は・・・いったい・・・」
慌てて体を霧に変えて逃げ出そうとする、しかし雪奈が腕を強く掴みそれを押さえ込んだ。
赤黒いバスタオルに身を包んだ雪奈が吸血鬼の血を吸い上げる。
「まさか・・・私より高位の・・・きゅ・・吸血鬼だとでもいうのか・・・」
それに見合うように、どんどんと吸血鬼の体が干からびていく。
「ど・・・同属・・・なのか・・・一体・・・なぜ・・・」
「・・・それは・・・わたしにもわかりません」
完全に血を吸いきり、吸血鬼から体を離す。紫色の瞳を持った少女は干からびた吸血鬼を駐車場に投げると双葉の元へと降りていった。




その6

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