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第4話:脱国



ゴンゴン。
アルフがドアを強く叩く。
「ちわー薪売りですー」
ドン・・・ガン・・・ドゴッ・・・ドゴゴゴゴ!!
バン!
「いらっしゃーい♪」
家のなかで異音が聞こえてきたと思うと、メガネをかけたパジャマ姿の女性が出てきた。
「もう、こんな時間に訪ねてくるなんて♪間違いを起こしていいって・・・あら?」
抱きつこうと歩み寄ってきた女性がアルフの背負った男に気づく。
「ごめん、怪我人と厄介ごと持ってきちゃった」
後ろからミューラも顔を出す。
「・・・・・こんばんは」
「間に合ってます、と言いたいところだけど・・・」
そういうとその女性は、アルフの左手に目をやるとため息を一つ。
「まあ入りなさい、アルフあんたも怪我してるでしょ?見せなさいよ」
メガネの位置を直しながら部屋へと招き入れる。

「えーっと、とりあえずオレも良くわかってないんだけど」
イスに座ってこれまでの経由を話そうとする。
「その前に左手、見せなさい」
「うはぁ、いまさらながらヒリヒリするな・・・」
溶解液で皮膚がたたれていた、爪にはヒビが入り手が痙攣している。
「私が治します」
エドガーを看ていたミューラがソファから離れて机につく。
「さっきまで敵対していたオレを治していいのかなぁ?」
「痛そうですから」
笑顔でそういい、アルフの左手を取ると青い光で包む。
「それに敵対というほどのものでもなかったしな」
ソファから声が聞こえる、エドガーだ。
「目、覚めてたんだ?」
「鍛え方が違うからな、むしろ気絶したことが不覚だ・・・私の剣はどこだ」
体を起こすと、睨むようにアルフに顔を向ける。
「そこにあるって、怖い顔しないでよね」
「貴様のせいで計画は滅茶苦茶だ・・・」
ハアっとため息を一つ。
「このくらいの妨害予想した上で作戦を考えないと駄目だよ」
「北の門の外で大魔法を連発するバカがいるとは思わなかったんだ!・・・・・はぁ」
怒気をはらんだ口調で言うと、疲れたように息をつく。
「まあそのかわりかくまってあげてるんだから許してよ。オレの目的を達成できたのはおっさんのおかげなんだしね」
「・・・そちらは?」
アルフの横にいた女性に気が付くと、そう訪ねる。
「ここの家主、ノーク=ラズナーよ。城の魔道鎧開発の手伝いしてるわ」
「信用できる人だよ、オレを騎士試験受けれるよう推薦してくれた人」
「それはもうアルフちゃんのお願いなら♪」
そう言いながらアルフに抱きついてほほずりを始める。
「性格に・・・難あり」
引きつった顔で、ノークを引きはがしながらそう言う。
「それでだけど・・・」
左手の治療をしているミューラに視線を向ける。
「なんでこの人を連れ出したの?こんな騒ぎを起こしてまで」
「まずあたしに紹介と経由を話してよ」
「・・・私はエドガー=フェール、旅の傭兵だ。彼女はミューラ=フェドルフィーネ皇女、フェドル王国の姫君である」
「へー」
適当なあいづちをうつノーク。
「・・・大して興味ないんだな?」
「それで、その傭兵さんとお姫様はなんで逃げ出したんで?」
素敵に受けた指摘を無視してノークは質問を続ける。
「・・・・国の一大事・・・とだけ言っておこう」
言葉を濁す、あまり言いたくないらしい。
「あの・・・私にも説明していただけないでしょうか」
いままでアルフと治療をしていたミューラが言葉を発する。
「私もまだきちんとした説明を受けていないので・・・ダメでしょうか?」
「しかし・・・」
「この人たちはきっといい人ですから大丈夫です、ね?」
アルフにあいづち一つ。
「『ね』って言われてもねぇ・・・あ、もう平気だよ?ありがと」
左手を軽く振ってみせる、爪や皮膚も完全に再生している。
「すごいねぇ、ここまで回復する魔法が使えるなんて」
「私の足も、もう痛みはない」
「おじさまの傷は深かったので・・・痛みと傷はないでしょうけどまだ走ったりしないでくださいましね」
「そうも言ってはいられませんが・・・」
ゴンゴン!
突如、ドアがノックされる。
「今夜は先客万歳だねぇ」
「待て」
立ち上がろうとするノークをエドガーが制止。
「・・・オレが出るよ、二人は奥に」
「・・・信じてもいいのか?」
「助ける気がなければこんなところに連れてきたりはしないよ、いいから任せて」
そう言うとアルフはドアに向かう。

「どちらさまで?」
ドアごしに声をかける。
「守備隊のものです、開けてもらえますか?」
アルフはドアを開けると、ドアのランタンに火を灯す。
「ご苦労様」
「騎士の・・・どなたか騎士殿がおいでで?」
アルフの腕章をみて、誰か騎士がいると思ったのだろう。
「オレがその騎士殿ですよ、今日合格を受けたから明日から正式に任務に就くことになっています」
「な・・・君が?」
「子供でも能力があれば受かるものですよ・・・この騒ぎは何かわかりますか?」
「あ・・・えっと、はい・・・賊がお城に忍び込んで鎧騎士を暴れさせたという話です。それでその賊の一団がこちらに向かったとの報告がありまして・・・」
「それで一軒づつ回ってるということですか」
「そうです」
「あなたの上司は?」
「北の門の屯所にいます」
「わかりました、オレも向かいます。ノークさん戸締りしっかりしてね」
そういうと部屋からアルフが短剣だけを携えて外に出る。
「ああん、帰っちゃうの?これからサービスタイムなのにぃ」
ノークがわざとらしくポーズを決める。
「あー忙しい忙しい」
アルフはそう言うと、ばたんっとドアを閉めたのであった。



コンコン。
「どうぞ」
「アルフェリア=レイ、入ります」
朝方まで雑務と巡回を続け、アルフは自分の隊の隊長室に呼び出された。
「昨夜はご苦労、もっともまだ何も解決はしていないが」
アルフの隊、第十二師団の隊長である。
「まだ顔合わせもしてなかったからな、私が第十二師団の隊長、バルトロメだ」
エドガーよりも老けてるのだろうか、四十くらいの面構えのいい男がそこにはいた。
「アルフェリア=レイです、今日よりレイス王国騎士団に正式に任命を・・・」
「ああ、形式がかった挨拶はいい。時間もないし何より・・その・・・苦手なのでな」
「そうですか、オレも苦手なので助かります」
アルフの緊張していた顔が若干緩んだ。
「・・・君の昨晩の行動、私はすべて知っているつもりだ」
そういうと隊長は席を立ちアルフに歩み寄る
「!」
アルフの鼓動があがる。
「昨晩というと・・・」
アルフの脳裏にはいろいろ浮かんできている、冷や汗も若干うかがえるほどだ。
「んむ」
がっ!とアルフの両肩をつかむと顔を近づけてこう言った。
「・・・感動したぞ!!!」
うっすら涙まで浮かべてそう言い放った。
「まだ訓練も始まってすらいない新兵でもある君が、国のために夜通し働いてくれるとは・・・」
「・・・どうも」
アルフは冷や汗をかきながらやっとのことで答えた。
「私は長年この隊を守ってきたが、君のように最初から騎士としての心構えを持った人間は久しぶりだ!」
アルフにどんどん顔が近づいていき、声のボリュームも上がっていく。
「口だけの若者がほとんどだというのに・・・君は!君は!!君は!!!」
「熱弁はそこまでにしてくれ、バルトロメ隊長・・・」
突然、アルフの後ろから声が降りかかってきた。
「あ、あなたは確か・・・」
「おお、クラウスか。早かったな」
「城の一大事ですからね」
そこにいたのは昨日の試験官だった。
「昨日はお世話になりました」
両肩を抑えられたままのアルフは首だけ動かして挨拶。
「合格おめでとう。それはそうとバルトロメ隊長、お時間よろしいですか?」
「おお、そうだ。時間がなかったんだ」
そういうとバルトロメ隊長は机の引き出しから紙を一枚アルフに差し出した。
「さっそくで悪いんだが護衛任務だ、すぐ近くまでだから危険もないだろうが昨晩のこともある。慎重に要人を送り届けてくれ」
「はぁ・・・わかりました」
アルフは指令書を眺める。
「うげっ」
アルフの顔が一気に崩れた。
「君の推薦者だ、よろしく頼むぞ」
その紙にはノーク=ラズナーとしっかり書いてあった。
「なんか都合がいいような悪いような・・・」
「なんの都合がいいって?」
「ああこっちの話ですこっちの」
ぱたぱたっと手を振るアルフ。
「そうか・・・彼女はいずれこの国の魔道技術を背負い立つ存在だ、粗相のないようにな」
「うちの弟にも声をかけてくれ、新人同士仲良く頼む」
「あ、じゃあエドガーさんも?」
アルフが思い出したように聞いてみる。
「いや、彼はいかない」
「なぜですか?」
「・・・それは・・・まあ・・」
バルトロメ隊長は言葉を濁す。
「・・・昨日の件の関係者かなんかですかね」
アルフは、今度は試すように聞いてみる。
「まあそんなところだ・・・我々はもういくからな。お前も早く出発しなさい」
「了解しました」
アルフは二人の隊長が去ってから、少し何か考えるようなそぶりをみせると部屋を後にした。



「どうしよっか?」
ノークの家に着いたアルフは首をかしげるしかなかった。
「確かに気に入らないわねぇ、確かに出国届けは前々から出してたけど・・・今まで却下され続けてたことなのに」
ノークも首をかしげる。
「しかも昨日、重要人物が誘拐されたばかりだし?」
アルフが言いながらミューラのほうを見る。
「紅茶いかがですか?」
アルフの視線もどこ吹く風、にこやかに紅茶をすするミューラ。
「どうもこうもない、我々も連れて行ってくれ」
「そうは言うけどね?おっさん」
「・・・おっさんはよせ」
「まずさ、なんで誘拐なんかしたのさ?一応昨日の夜はかくまってやったけど、これ以上隠してあげる必要はないんだよ?」
「そうねぇ、いっそつき出しちゃったほうがあたしも楽だし・・・」
ちらちらと視線をエドガーに向けながら二人は話を続ける。
「・・・わかった」
「話す気になった?」
「・・・君達が無関係というわけでもないか」
「あたしはまだかかわり合いになりたいとは思ってないけど」
つき出したほうが楽という言葉に偽りはないようだ。
「まあまあ、理由を聞いてからでもいいじゃない」
「単純で簡単な話だ・・・この国は戦の準備をしている」
「・・・・・」
アルフとノークの顔が引き締まる。
「他国の情報収集には当然のことだが、武器や鎧騎士の量産」
「それはいつものことだけどね・・・」
ノークが口を挟む。
「合成獣の研究がこの国は盛んだろう?」
「あ、うん・・・大樹の森を枯らす目的で森を襲う魔物を作ってるけど」
「その合成獣に隣のフェドル国を襲わせる算段だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
全員が全員、何かを考えるような顔をしだす。
「人間のを使った合成獣だ。知能が高い生き物をそのまま使えば強く賢い獣になる」
ふぅ・・・とエドガーは懐から拳大のガラス玉を出す。
「これが証拠だ」
そのガラス玉に魔力を吹き込むと、さまざまな動物の体組織のデータが浮き上がった。
・・・鮮明な解剖の映像と共に。
「・・・いやっ」
ミューラが顔を背ける、アルフも顔をしかめた。
「もういいや・・・わかったから」
アルフがうめく。
「だらしないねぇ、でもそんなことも可愛いわん」
「冗談まぜていい話じゃないでしょ・・・」
「本気なのにぃ」
「ここから先になるが、人間の映像もある。そしてその映像の中にはこの国の国王も映っていた」
「え?」
「・・・国王も合成済みのようだ」
「えええ?!!」
「この国は危険だ、だから姫は連れ出す」
「まあ・・・わからなくはないけど、戦支度かぁ」
「もう一つ、ここの大臣が保持しているという第十三騎士団の存在だ」
「あーそんな噂あったね・・・」
アルフが思い出したように言う。
「あれは合成獣だけで構成された部隊だ。昨日一戦まじえたが確かに人ではなかった」
「どこまで話を信じてやればいいものか・・・ねぇ?」
「そうねぇ、あんたはどうしたいの?」
判断をアルフに任せたようだ。
「んー、とりあえず・・・」
アルフはエドガーとミューラを見比べる。
「時間もないから外には連れ出してあげるよ、国境でシールとも待ち合わせしてるからね」
そういうとアルフは書状を眺める。
「これと腕章さえあれば騎士様特権で関所越えれるからね」
「連れて行ってくれるのか」
「しばらく一緒に行動してやるよ、あんたが嘘ついててもそんときはそんときだ」
「・・・すまん」
「まあ任せてよ、こうみえてもオレはおっさんにかなり感謝してるんだから」
アルフがそういって席を立つ。
「それにこの国がおかしいことは今に始まったことじゃないよ」
「ほう?」
エドガーが聞き返して行く。
「さあさあ時間ないよ?外に出る!馬車に乗った乗ったー」
それを無視して皆をうながすと、言葉の元気さとは正反対にこそこそと馬車にエドガーとミューラを押し込む。




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